この曲について

― 最期のさようなら ―

私たちは、この世に生を受けた以上、だれもが、遅かれ、早かれ、否応なしに、この世から永遠の別れを告げるときがやってきます。

本曲は、病のため失明しつつある妻を、献身的に介護していた夫が、逆に、病魔に侵され、妻を残して先立とうとしている情景をもとに、作曲いたしました。

けれども、曲は、聞く人によって、当然、感じ方も違います。

ロマンチックな曲が好きな方は、ドラマチックな――たとえば、特攻隊の青年と恋に落ちた乙女のやるせない惜別の――大悲恋歌などを、想像されるかもしれませんが、それはそれで、かまわないと思います。かたくなに、作曲動機にこだわる必要は、ありません。

ともあれ、本曲は、歌劇のドラマチックで悲劇的なアリアを思わせ、歌手の力量が存分に発揮される魅力的な曲といえましょう。私が最も気に入っている作品の一つです。

私がこの世に生を受けて、すでに82年の歳月がまるで夢のように流れ去ってしまいました。

思うに、本曲は、私がこの世に別れを告げる最後の作品――辞世の曲となるに違いありません。

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